2009年4月 8日 (水)
【2】そこはかとなく薫る
13期生 田留 晋吉さん
愛校心はあるにはあるのだが、早稲田大学至上主義かと問われれば、必ずしもそうとは言えない。世の中には、早稲田大学の他にも素晴らしい大学はあるし、良い環境で教育を受けてきた人はたくさんいる。
ところが、今までのところ、本庄高等学院より素晴らしいと思われる学校の話は聞いた事がないというのが実態である。高校時代の話をすると、聞いた人は一様に「そんな高校があるのか。」と驚きの表情を浮かべる。ある人は信じられないと言い、ある人はとても羨ましがったりもする。やはり、本庄は一般の高校のイメージからは大きくかけ離れているようだ。話をする私は、「そうでしょうか?」ととぼけつつも、内心はやはり、本庄は他と違った学校なのだと改めて認識する。
「我々は他と異なる」。これこそが、本庄のアイデンティティであったと思う。私が入学したのは13期であったので、既に新設校という感覚はなかったが、それでも、学校創立時に込められた「従来の学校とは異なるスタイルの学校であれ」という思想は強く息づいていた。
ひとつの学校とは思えない広大な敷地や、聳え立つ奇抜なデザインの校舎など、学校環境が高校のレベルを超えているという事もあったが、それだけでは本庄は語れない。当時の学院生を貫いていたのは、「自分達は他と異なる」存在であろうとする事であり、これが、都心から遠く離れた山の中に構えられたキャンパスと相まって、本庄独自の校風を築いていたのだと思う。
一言で表すならば、それは「独立自尊」であろう。文化祭や体育祭の異様な熱狂や、学院生活全般においても、「俺は他とは違うぞ」という個々人のエネルギーが原動力となっていたのだ。
その微笑ましい小さな象徴が、連綿と編纂が続けられてきた「学院用語辞典」ではないだろうか。今でも忘れられないのが、初版の巻頭の辞で、当時の生徒会長だったかが書き記した次の一言である。「およそ学院生が、標準化されつつあることが気になる。」と。開校からわずか数年、我々の大先輩はすでにこんな憂慮をしている。この生徒会長が、ただの平凡な高校生だったら、もしかしてこの書物は生まれなかったかもしれない。この先輩達の情熱が、後々にわたる本庄のあり方を決定付けてきたのだろう。
だが、本庄の素晴らしいところは、こうした「他とは異なる」意識が、いびつな特権意識とはならなかったことにあると思う。皆が皆、独立自尊であるがゆえに、他との異なりを認め、理解し合うという気風に満ち溢れていた。それはホームステイの存在に象徴される、独自の集団生活にある。個性的な人間がひとつの屋根の下で共同生活するには、他者への理解と敬意がなければ成り立たない。本庄は自ずとそうした気風を育てる土壌があったと言える。これは絶対に人間の幅を広げ、育てるシステムだ。社会に出ていくばくかの経験を経た今、この本庄の良さをとても痛感している。
こうした本庄の校風は、その後の人となりにも影響を及ぼすものらしい。
大学時代、私がお世話になったラグビー部のコーチで、今はスポーツライターとしてご活躍のDさんから、こんな話を聞いたことがある。
Dさんが行きつけだった阿佐ヶ谷の居酒屋で、よく居合わせるどうにも雰囲気のいい青年がいた。何度もカウンターで目撃するので、その青年も常連なのだろうと思われたが、飲んでいても気になって仕方がない。
ある時、思い切って声をかけてみたところ、何とその青年は、あのゴスペラーズのメンバーで、本庄OBでもあるYさんだったという。Dさんは、そうとは知らずに声をかけた訳であるが、何となく雰囲気が違うと思った、と言っておられた。「どうも彼は本庄出身らしいね」そして最後にこう言われた。
「そこはかとなく、薫るんだ。そういう人は。」
また、個人的な経験であるが、ある仕事で少し迷った事がある。その時、ふと見知らぬ先輩社員が風のように現れて手助けをしてくれる。後で他の社員に聞くと「君は、彼の高校の後輩らしいね」と教えられた。また、とある別の先輩については「お前はあいつの高校の後輩か」と酒の席で話題になったりした事もある。風のように現れた先輩も、また「あいつ」先輩も、勿論いい意味で、それぞれの職場で注目を集め、確たる存在感を示しているようであった。
社会人ともなると、高校生のような自己主張はよほど意識しない限り出来ないものと思われるが、そうした中、本業もさることながら、阿佐ヶ谷の居酒屋で、またそれぞれの職場で、「何か違う」存在感を示しているのが、本庄の先輩達だ。私などはまだまだ及ばないが、こうした先輩達のようにありたいと思っている。それは、「標準化が気になる」生徒会長から続いた、私の中にも息づく本庄のアイデンティティの一端であろう。
世の中は変わり、早稲田も大きく変わっていると聞く。だが、本庄は変わらないでほしい。何かが違い、そこはかとなく薫る人材を生み出す学校であって欲しい。
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